才市の信心歌

 1851-1932
 石見の国邇摩郡大浜村字小浜(島根県太田市)
「生ける妙好人浅原才一(寺本慧逹著)」より
まよいかさねたわたくしが、
いまわ、あなたの、
いまわ、あなたの、
いまわ、あなたの、
をてに(御手に)あげられ、
ああ、うれしや。
わたしや、ろくじ(六字)のなかに、
とられてをること。
「日本的霊性(鈴木大拙著)」より
わしが聞いたじやありません、
わしが聞いたなありません。
こころにあたるなむあみだぶつ、
いまあなたに打たれ取られて。
わしが阿弥陀になるぢやない、
阿弥陀の方からわしになる。
なむあみだぶつ。
わしのこころは、あなたのこころ、
あなたのこころが、わたしのこころ。
わしになるのが、あなたのこころ。
お慈悲も光明も皆一つ。
才市もあみだもみなひとつ。
なむあみだぶつ。
「妙好人(鈴木大拙著)」より
さいちや、しやわせ、
あんじ、煩ふこともなし、
ねんぶつ称へることもなし。
あなた御慈悲にすくわれて、
御恩うれしや、なむあみだぶつ。
なむあみだぶわ
ねてもなむあみだぶつ、
起きてもなむあみだぶつ、
行住坐臥のなむあみだぶつ、
働くもなむあみだぶつ、
帳面つけるもなむあみだぶつ、
何の中からもなむあみだぶつ、
ざんぎ(慚愧)をしてわなむあみだぶつ、
喜んでわなむあみだぶつ、
ざんぎをしてわなむあみだぶつ、
よろこんでわなむあみだぶつ。
これさいち、よろこびわ、あてにわならの(ぬ)。
けゑて(消えて)にげるぞ。
にげぬ御慈悲わ、親の慈悲。
なむあみだぶに、心とられて、
これにさいちが、たすけられ、
御恩うれしや、なむあみだぶつ。
さいちにや、なんにもない、よろこび、
ほかにわ、なんにもない、
ゑゑも(好いも)、わるいも、みなとられ、
なんにもない。
ないがらく(楽)よな、あんき(安気)よな。
なむあみだぶに、皆とられ、
これこそあんきな、
なむあみだぶつ。
さいちや、このたび、しやわせよ、
あく(悪)もとられ、自力も取られ、
疑もとられ、みなとられ、
さいちがしん正(身上)みなとられ(皆取られ)、
なむあみだぶつをただ貰うて、
これで、さいちがく(苦)がないよ。
これが浄土にいぬるばかりよ。
わたしや、あなたに、をがまれて、
たすかうて(たすかって)くれと、をがまれて、
ごをんうれしや、なむあみだぶつ。
「才市同行ー才市の生涯と周縁の人々ー(高木雪雄)」より

「この書に用いた才市の詩は『妙好人浅原才市集』と『妙好人才市の歌』の中からいただいたものである。才市の詩は読み難いので、私が当て字や仮名を漢字に直した。」(p.4)

有難や 筆を手に取る この才市
とらせる 慈悲が 阿弥陀さま
胸に湧く 歓喜にまかせて 書き記す
南無阿弥陀仏 なむあみだぶつ
書いて よろこぶ 親の慈悲
かかせて いただく なむあみだぶつ
わたしゃ 困ったことがある
胸に歓喜の あげたとき
これを書くこと できません
なむあみだぶつと 言うて書け
才市 弥陀の心を 書いて見よ
弥陀の心は かかれません
弥陀の心は 尊いばかり
弥陀の心は なむあみだぶつ
わたしゃ あなたに 救われて
ご恩うれしや なむあみだぶつ
憂きことは 浮世の波で わしが波
波の中でも 苦にゃならぬ。
なむあみだぶと 居ると思えば
そのはずよ 南無(才市のこと)と
阿弥陀の 親子の楽しみ
ままならぬ ままにしょうとて
ままならぬ
ままになったら 月の丸さも 欠けはせぬ
南無阿弥陀仏の ままにとられて
浮世は ままならぬ
ままになったら 浮世じゃないよ
それで 慚愧で 立つ浮世
あさまし あさまし あさましや
これが 歓喜に なる浮世
なむあみだぶつ なむあみだぶつ
才市 何が 面白い
迷いの浮世が 面白い
法を よろこぶ 種となる
南無阿弥陀仏の 花ざかり
朝 起きる
なむあみだぶに つれられて
ご恩うれしや なむあみだぶつ
寝るも 仏
起きるも 仏
覚めるも 仏
さめて 敬う なむあみだぶつ
(上記の歌で筆者は安心決定鈔に触れる)
朝な朝な 仏と共に起き
夕な夕な 仏を抱きて臥すといえり。
~中略~
摂取の心光に照護せられたてまつらば
行者もまた かくの如し
朝な朝な 報仏の功徳を持ちながら起き
夕な夕な 弥陀の仏智と共に臥す
(以上、安心決定鈔より)
いつみても み手に救われ 招かれて
わたしゃ あなたに 摂(すく)い取られて
なむあみだぶつ なむあみだぶつ
わしの お礼は あなたと 話し
話しすること なむあみだぶつ
わしのお礼は 慚愧と歓喜
させていただく なむあみだぶつ
お礼するのも あなたに摂(と)られ
あなた(の)お慈悲で お礼をするの
御恩うれしや なむあみだぶつ
十方微塵世界 逃げば逃げ
微塵世界のほかに 国なし
微塵世界の 此処で救われ
ご恩うれしや なむあみだぶつ
浮世のことは あてにはならぬ
なったことが くるっと反(かや)る
あてになるのは なむあみだぶつ
あなたの声を 私(わし)に拝ませ
わたしゃ あなたを 聞くばかり
(才市が七里恒順氏よりいただいた詩歌)
三十一まで なにが えろうなった
こざるのやうな ちゑばかり
こざるのやうな はからいやめて
南無阿弥陀仏を いふばかり

才市の関連書籍

タイトル 著者 出版社
1919 生ける妙好人浅原才一 寺本慧逹 法爾(第22号)
1943 大乗相応の地 藤秀璻 興教書院刊
1944 日本的霊性 鈴木大拙 大東出版社
1948 妙好人 鈴木大拙 大谷出版社
1949 妙好人才市の歌・一 楠恭 法蔵館
1952 浅原才市翁の語る 寺本慧逹
1957 浅原才市(西楽寺内・浅原才市翁顕彰会) 川上清吉 百華苑
1957 才市さんとその歌 川上清吉 百華苑
1957 宗教詩人才市 藤秀璻 法蔵館
1967 妙好人浅原才市集 鈴木大拙 春秋社
1976 才市念仏抄 利井興弘 百華苑
1977 妙好人才市の歌・ニ 楠恭 法蔵館
1981 続才市念仏抄 利井興弘 法蔵館
1981 ご恩うれしやー分類、妙好人浅原才市のうたー 浅原才市翁顕彰会
1981 妙好人石見の才市 浅原才市翁顕彰会
1981 妙好人 才市さんの世界 本願寺出版社
1988 定本妙好人才市の歌・全 楠恭 法蔵館
1989 才市 水上勉 講談社
1989 浅原才市の歌 藤原利枝 法蔵館
1992 才市同行ー才市の生涯と周縁の人々ー 高木雪雄 永田文昌堂
1992 さいちさん 朝枝善照 永田文昌堂

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